身替わり坊主
〜古都京都
卒業旅行の女子高生たちが訪れていた。
彼女達はそれぞれ進路も決まり、これが学校での最後の思い出造りである。
「・・・え〜、これから各班ごとに自由行動とする。5時に嵐山へ集合だからな」
バスから降りた後、引率の教師がマイクロフォンで説明する。
「点呼の時間には遅れるなよ。では一時解散!」
ある仲良しグループの班にて。
「あー、ったくぅまた京都だよ?」
「そうそう。あたし達も中学のとき修学旅行ここだったもん」
何人かが同感だと頷く。
「えー、あたしは結構好きだなぁ。それに自分じゃなかなか来ないだろうし」
「まあ、それはいえるかもね」
とりあえず彼女達の班は太秦の映画村へと向かっていた。ここで時間をつぶしてしまおうというのである。寺社巡りという発想ははじめからないらしい。
「あ、かわいい犬〜。おいで♪」
道中、前方からトコトコ歩いてくる子犬に誰かが声を出す。
彼女達に囲まれ尻尾を振って喜ぶ子犬。
そのうち一人が
「あたしも触るぅ」
と、手を出したその時。
『カプッ』「きゃっ痛ぁい」
いきなり噛み付かれた彼女は思わず飛びのく。
ところが、
『ウ〜ッ、キャンキャン!』
「やだぁ、助けて〜」
つい、逃げだしてしまった彼女を子犬は追いかけていく。
「あ、待ってよ智佐子〜」
彼女=智佐子は子犬に追われて走り去ってしまった。
「・・・ハッあたし達も追いかけなくっちゃ」
全員が突然の成り行きに呆気にとられていたもの、すぐ我に返ると後を追いかけはじめる。
「待ってよ智佐子〜」
それから10分後、全力疾走で子犬を振切った智佐子にみんなようやく追いつく。
追いかけた全員が肩で息をしている状態だった。
「ハァッハァッ・・・やっと追いついたぁ」
「あんたねぇ、逃げるから犬に追われるのよぉ」
智佐子に対して非難の声があがる。
「ちょっとぉ、あたしだって怖かったんだからね!」
息も絶え絶えで智佐子が反論する。
「見た目はかわいかったけどぉ」
「以外に猛犬だったね」
「しかも智佐子にだけ〜」
「もうっ、みんなバカにしてぇっ」
しかしまあ走ったおかげで映画村には早くも到着。
さらし首を見たり町人の腕を切り落としたり(^^;しているうちに時間は過ぎていった。
「さ、行こうか」
彼女達がタクシーでも使おうか、と歩きながら話していると、前方からガラの悪そうな男が
肩を怒らせながらやってきた。
彼女達は本能的に男を避けるように通り過ぎようとした。すると、
「ちょっと待てや」
咽喉に絡みつくような濁声で呼び止められた。
思わず彼女達はビクッとして立ち止まる。
「な、なんですか?」
「姉ちゃん、かわいいじゃねぇか。ちょっと俺とつきあえよ」
「え、えっ?」
「いいことしてやるからよぉ」
と、いいながら男がどんどん近寄ってくる。
「なっ?」
ポンと肩に手を置かれた彼女は・・・
「いやぁ〜!」
と男の手を振り払って逃げ出した。
「待てやぁ、姉ちゃ〜ん!」
彼女はその時はずみでカバンを落としていった。
それを誰かが拾い上げて後を追う。
「ち、ちょっとぉ〜待ちなさいってばぁ〜」
「ねぇ、また智佐子だよ」
「ついてないわねぇあの子も」
少々うんざりしながらも後を追いかけたが、智佐子が路地へと逃げ込んでしまったために行方を見失ってしまった。
「ねぇ見つかった?」
「ダメこっちにはいないよぉ」
「智佐子ってばどこへ行っちゃったんだろう?」
途方にくれる彼女達。
「あ、そうだ。ケータイかけてみよ?」
「そっか、その手があったねぇ」
PrrrrPrrrrPrrrr・・・
やけにすぐ近くで着信音が鳴り響く。
「・・・ねぇ、そのカバン」
「これ智佐子が落としていったんだよぉ」
中を開けると案の定携帯の着信ランプが光っていた。
「どうしよう」
「カバンにお財布も入ってるよ」
「やばいじゃん智佐子」
「これ、何かお困りのようじゃな、どうしなさった?」
そこへ人を安心させる柔和な眼差しで年配のお坊さんが彼女達に声をかけてきた。
様子がおかしいと察したのであろうか。
「あ、お坊さんだ」
「どうする?」
「話してみよっか?」
「・・・実は」彼女達はかわるがわる今までの経緯を説明する。
「・・・で、もう点呼まであまり時間がないんですよぉ」
「先生に怒られちゃうし、大騒ぎになっちゃうよぉ」
頷きながら彼女達の話を聞いていたお坊さんは、
「なるほどのぉ・・・わかった。そういうことなら力になれるかもしれんのぉ」
「え、ホントですかぁ」
「ウチの寺までついてきなされ」
と言ってお坊さんは歩き出す。
それに促されるようにして彼女達は後を追いかけた。
「ここがぁ」
「ちょっとボロくない?」
口々に失礼なことを云う。
かなりの年数を得た門をくぐって本堂に案内される。
「さ、今お茶でも出させるでの。ちょっと待ってなさい」
そういうとお坊さんはどこかへ行ってしまった。
しばらくして年若いお坊さんがお茶とお茶菓子を運んでくる。
「どうぞ熱いうちに」
云われるがままに彼女達がお茶を飲みつつ待っていると、
「待たせたの」
お坊さんが古びた木箱を小脇に抱えて戻ってきた。
「あー、なにそれぇ」
「ふぉっふぉっ、慌てるでないわ。いま見せるでの」
お坊さんは丁寧に箱の紐を解き、蓋を開けた。
中には白足袋が一足納まっているだけだった。
「これはな、身写しの足袋というんじゃよ」
「なにそれ?」
「早い話がな・・・どなたか智佐子さんの写真と身につけていたものなどお持ちでないかね?」
「あ、智佐子のカバン預かってるから何かあると思う」
「ほっほっ、それは良かったの」
彼女達は智佐子のカバンをチェックする。
「あ、これどうかな?カチューシャ」
「学生証に写真もあるよ」
それぞれの品をお坊さんに差し出す。
「うんうん、これで充分じゃ」
カチューシャと学生証を受け取るお坊さん。
そして、まずカチューシャを禿頭につける。
「ぷっ、やぁだ〜おかしい〜」
「ふぉっふぉっ、まあ黙って見ていなされ」
お坊さんは足袋を持ってきたものと履き替える。
座禅を組み、智佐子の学生証の写真を見ながらなにやらお経を唱え始めた。
厳かな読経がお堂に響き渡る。
普段はまるで気にもしていない世界だがお寺という空間の雰囲気に飲まれるようにして
彼女達は静かに見入っていた。
『・・・あれ?なんかお坊さん小さくなってない?』
『・・・うそぉ、え!髪生えてきてるじゃん』
『・・・声がなんか高くなってきてるような?』
どうやら自分達の理解を超えたことが起こりつつあるのを彼女達は感じていた。
お互いに目を見合わせ、不安を打ち消すように囁きあう。
・・・そして読経が止まった。お坊さんがゆっくりと顔を上げる。
「ふぉっふぉっ、これでなんとかなるじゃろ?」
「うっそー!マジ智佐子じゃん」
「お坊さん智佐子に変身しちゃったぁ!」
ざわめく彼女達を見まわしながら、お坊さんは満足そうに話しかけた。
「どうじゃ?わしがこの姿で行けば、点呼はごまかせるじゃろ?」
「あ、そっかぁありがとお坊さん」
「でもホントにそっくりだぁ」
彼女達は智佐子の姿をしたお坊さんを囲んでおそるおそる触ってみる。
「きゃっ、胸まであるしぃ」
「これ!いたずらするでない。わしは今、完全に智佐子さんの姿になっとるんじゃから当然じゃわい」
恥ずかしそうに頬を赤らめ叱りつけるお坊さん。
だが智佐子に変身した姿では迫力もなにもなかった。
やがて智佐子のカバンの中から出してきた服に着替えたお坊さんは、もはや誰が見ても智佐子以外の何者でもなかった。
「さあ、智佐子さんは小僧どもに捜させておるから、わしらは行くとするかの」
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その頃
智佐子は鹿に追いかけられていた。
「ちょっとぉ〜、なんで京都で鹿が襲ってくるのよぉ〜!鹿は奈良じゃないのぉ〜!?」
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嵐山で無事点呼も終わり、全員バスで移動することになった。
もちろんお坊さんも一緒である。
もし小僧達が智佐子本人を発見したら彼女達の携帯に連絡がくることになっている。
それまでの間はお坊さんが智佐子になりすましているしかなかった。
「でもぉ、ちょっと嬉しいでしょ?こんなにたくさんの女の子に囲まれてぇ」
「馬鹿をいうでない。わしはこれでも御仏に仕える身でな、おなごに興味は持たないことになっておるんじゃ」
「とかいってぇ顔赤いじゃん。かわいい〜」
本来の自分よりはるかに年下の孫娘のような女の子達にからかわれて、お坊さんは居心地が悪そうだった。
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その頃
智佐子はいかにもオタクな青年に追いかけられていた。
「き、君ぃ。ぼ、僕たちの自主制作映画に出てくれませんかぁ〜」
「きゃあ〜っ、あたし旅行中だからそんなの関係ないってば〜」
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宿泊先の旅館に到着。
バスを降りて、それぞれの割り当てられた部屋へ移動する。
各班ごとに別れていたので、お坊さんが他の女の子達に疑われる心配はまずなかった。
「・・・まだ誰も連絡はないかね?」
「ないですぅ〜」
部屋に通されて、みんながくつろいでいるのを見計らってお坊さんが聞いた。
彼女達の返事を聞いて
「役に立たん小僧どもじゃ」
思わず毒づくお坊さん。
「そんなぁ、すぐには見つからないと思いますよぉ」
「どこまで行っちゃったか見当つかないもん」
「そうかもしれんが、わしらは地元じゃからの。ここらの地理は大体頭に入っているはずなんじゃが」
「でもそろそろ暗くなってきたし、智佐子大丈夫かなぁ?」
「食事の用意ができましたよ〜」
そこへ仲居さんが呼びにきた。
「みなさん大広間の方へどうぞ」
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その頃
智佐子は酔っ払いに追いかけられていた。
「そこの姉ちゃ〜ん、おじさんと飲みにいこうぜぇ〜」
「やぁだ〜、しつこいオヤジぃ〜」
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食事も終わり、彼女達は部屋へ戻ってくる。
団体客用の夕食としてはまあまあ満足いく部類であった。
「へっへっへー、あたしいいもん持ってきたんだぁ」
「え、なに?」
「ジャーン、ワインで〜す」
「ふふっ実はあたしもさっき外出たときビール買ってきたよ〜」
彼女達が妙に盛り上がる。
「これこれ、未成年がなにを言っておるか」
お坊さんが顔をしかめて言うと、
「いいじゃん、これも思い出のうちでしょ?」
「そうよぉ、お坊さんもいつもは飲むんでしょお?」
「む、それはそうなんじゃが・・・」
「あたし達お酌してあげるよ」
「そうそう。さ、一杯いきましょ」
彼女達のパワーに圧倒されたお坊さんはいつのまにかグラスを持たされ、なみなみとビールを注がれてしまった。
「みんな行き渡った?それじゃ乾杯〜!」
・・・はぁ、あんまり大騒ぎはしないでほしいものじゃ、と思いながらお坊さんはビールを一気に飲み干した。
「おお、お坊さんってばいけるじゃん」
「もっと飲んで飲んでぇ」
「あ、あ〜あ、そんなに注ぐんじゃないわい」
・・・ふとお坊さんが我に返ったとき、すでに彼女達は完全に出来あがっていた。
「きゃはは、なんか熱くなってきたねぇ」
「もっとワインちょ〜だぁい」
女ばかりの集団であるせいか、着ているトレーナーをパタパタあおいで風をいれたり、スカートがめくれているのも気にせずはしゃいでいる、といった様子が見て取れた。
「これっ、なんじゃはしたない」
「あ〜、智佐子ぉ。あれ、お坊さんだっけ〜?そんなこと云わないでもっと飲もうよぉ」
「もうその辺にしておいたらどうじゃ?」
「やぁだ〜、もっと飲むぅ〜」
『・・・弱ったもんじゃのぉ、最近の若い娘は』
こめかみに拳を当てて真剣に悩むお坊さん。
「あ〜もう熱くて汗びっしょりだよぉ」
「あたしもぉ・・・ねえお風呂行こうよぉ。汗流そう?」
「いいね〜、ここ露天風呂あるんだって〜」
「行こ行こ」
彼女達は一斉に行動をはじめた。それぞれ着替えやタオルを手に部屋から出て行く。
『ふう、やれやれ。ようやく落ち着けるわい』
「あれ、お坊さんは行かないの?」
「わしは結構じゃよ」
「ダメぇ〜、お坊さんもあたし達と一緒にお風呂入るのぉ」
「そ、それはまずいじゃろ、わしは仮にも男・・・」
「何言ってんのぉ。智佐子のくせにぃ」
「確かに外見上はそうかもしれんが・・・」
慌てて断るお坊さん。
「もうっ、わけわかんないことを・・・みんなぁ連れてっちゃお」
「わわわ、それは困る。わしは御仏に仕える・・・」
「うるさいわねぇ。とにかく来るのぉ」
彼女達数人に抱えられてムリヤリ連れて行かれるお坊さん。
酔いの入った彼女達に理屈で逆らうとするのは無駄であった。
脱衣所で。
「わーい早く入ろうよぉ♪」
「温泉のにおいがするね〜」
すばやく脱ぎ散らかしていく彼女達の姿を見て、お坊さんはあまりの事態に身動きも出来ずにいた。
「早く脱ぎなよぉ、何してるの」
「い、いや、わしは・・・ぶうぉおっ」
話し掛けてきた彼女はすでに服を脱ぎ捨て裸になっていた。お坊さんもやはり男。すらっとしたプロポーションに目を奪われてしまう。
「か、観音さまじゃぁ〜」
「なに訳わからないこと言ってるのよぉ」
「もう脱がしちゃおうよ〜」
よってたかって丸裸にされてしまうお坊さん。気の毒にも目のやり場がどこにもない。
「わ、わしはぁ御仏に仕えるぅ〜〜〜!」
彼女達にあられもない姿で腕を掴まれ、風呂場まで引っ張っていかれてしまう。腕に押し付けられた女の柔らかい胸の弾力を感じ、お坊さんは目を白黒させる。
露天風呂には何一つ身につけていない女子高生達しかいない。なるべく彼女達の姿を見ないように入浴する。
「?」
お坊さんは自分の胸に違和感を覚えた。何か抵抗が・・・
つい下を見ると自分の胸がぽっかりと浮かんでいる。
「そ、そうじゃった!忘れてたわい」
慌てて目をそらすとそこにも裸の女の子。
「い、いかん!落ち着くんじゃ・・・」
お坊さんは目を閉じて動悸を押さえようと胸に手を当てる。すると当然のように二つの膨らみに触れてしまう。
「うわっ」
「・・・ねぇねぇ、さっきからなに一人で騒いでるの?」
アルコールと温泉の気持ち良さに上気して目を潤ませた女の子が話し掛けてくる。なんだか色っぽい。
「な、なんでもないわい」
「ふぅん・・・ねぇ智佐子の胸って大きいよねぇ」
彼女はさも当たり前のように触ってくる。
「!!!」
「いいなぁ、うらやましいよぉ・・・あ、すっごく柔らかいんだあ」
「!!!!!!」
元の姿では感じることの出来ない不思議な感覚に、お坊さんは戸惑っていた。
「あたしももうちょっと胸ほしいなぁ」
彼女はそういってお坊さんの手を取り、自分の胸に手を当てさせる。
「!!!!!!!!!」
「ねぇ、ペッタンコでしょう?あぁ、あたしもこれぐらいあったらなぁ。ねぇ〜みんな?」
彼女の言葉に反応してお坊さんの周りに女の子がが集まって来る。
かわるがわるにお坊さんの胸を触ってはしゃいでいる。
その刺激的な状況に、もはやすでに頭の中で何も考えられなくなってきたお坊さん。
『わ、わしはどうにかなってしまいそうじゃあ〜!』
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その頃
「もう〜!ここはどこよぉ!!お腹すいたぁ!足痛ぁ〜い!!」
彼女の叫びは誰にも届くことなく、虚しくも夜の町に消えていった。
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